菊花石物語

愛好者コレクション 石井コレクション

石井コレクション

日本の各地に菊花石の愛好者は多くおります。特に群馬県には、菊花石の熱心な愛好者が多くいます。それは、群馬の自然風土が厳しく、この中で育つと自然の本質を知らずして理解されて菊花石が見えてくるのでしょうか。

石井氏は群馬県甘楽町に住んでいますが、生まれは荒船山の麓、馬坂の地で生まれ育ちました。荒船山の星尾峠付近から菊花石が産出することを子供の頃からいろいろと逸話を聞いていたので興味はありましたが、菊花石の収集を始めたのは15年程前からです。

菊花石に魅了されて集めてみると、根尾谷の菊花石はなぜか工芸的な菊花石が巾を利かせておりこれが本当に良い物なのかと疑問に思い悩みました。そして「菊花石の世界」を見て平成13年1月の寒い日にお子さんを連れて訪ねて来てくれました。菊花石の求め方を聞かれるので「小花で色彩の良い菊花石を求めなさい」というと、その真意を汲み取り理解されました。

遅い趣味の始まりでしたが毎年何度も根尾谷を訪ね、また関東のお店を訪ね歩きました。その熱心さと誠実な人柄が名品が出ると最初に氏に連絡がありました。始まりは遅くても素晴らしい菊花石を多く授かりました。

生家にて
生家にて

氏の故郷には秩父古生層の地質で、周辺の山や洞窟などはチャートや石灰岩で出来ています。それらが急峻崖を造り、谷を渡る風の音や川の流れがリズムとなって響いています。その中で生まれ育つと美の根幹を養い自然感を得ます。大人になってから菊花石を見ると、子供の頃の感覚が蘇り自然の本質を見ています。

荒船山
荒船山

標高1423mの荒船山は平な山頂を持つ石灰岩の特異な山として、多くの登山者を魅了する有名な山です。荒船山は根尾の舟伏山と同じく、山頂が平で石灰岩があり菊花石が産出するという共通点があります。星尾峠の産出地は氏の生家から直線距離にして北に3キロ程と近くにあるのに、崖となり危険で近づけないのです。

菊花石の記録
菊花石の記録

関東の愛好者の貴重な菊花石の記録です。菊花石の記録を残すことを進めたのです。そのとき、光線状態と花の構図を考えて撮影すると菊花石が理解出来ると教えたのです。そして、ハレーションの少ない写真と構図を写した写真を送ってくれました。

赤倉山菊花石 玉樋母岩 銘・南牧
横9高14巾6cm
赤倉山菊花石 玉樋母岩
銘・南牧

小さな巻き込み母岩の皮目を削り取っただけの菊花石。暖かい質感の母岩の中で花が少し桜色に染まり、穏やかな春の雰囲気を醸し出しています。花序は巻き込み重なり咲いています。それは、母岩の中で花のぼんぼりをつくっているのです。その花の醸し出す雰囲気が家族のみんなに人気があります。

初鹿谷菊花石 玉樋母岩 銘・花霞み
横21高14巾10cm
初鹿谷菊花石 玉樋母岩
銘・花霞み

大きな巻き込み母岩の一部ですが上手に花を見立てています。花の展開が右上を軸にして白い花が弧を描くようにして並んでいます。その花を小さな粒菊が取り巻き華やかに花を彩っています。

赤倉山菊花石 玉樋母岩 銘・花響き
横17高14巾7cm
赤倉山菊花石 玉樋母岩
銘・花響き

この母岩は軟らかい花のまとまりやすい母岩です。生成時、軟らかい母岩の中で核が弾けると花弁と花弁の縁が押し合い縁が長く伸びて飛び出していきます。この飛び出した縁が乱れています。これを「火炎」と言っています。花の白炎と母岩の中の白炎が絡み合い軽快なリズムを母岩に与えています。

赤倉山菊花石 紅白菊花石 銘・豊彩
横14高18巾7cm
赤倉山菊花石 紅白菊花石
銘・豊彩

菊花石の中で数百に一つの割合で紅白の菊花石が表れます。紅白の花が表れると、花出しは色彩の対比を考え合わせて見所を出していきます。紅白菊花石は天地創造を超えたところにあり、豊かな気持ちにしてくれます。

赤倉山菊花石 黄金菊花石 銘・天恵
横16高27巾10cm
赤倉山菊花石 黄金菊花石
銘・天恵

昭和62年赤倉山から産出した黄金菊花石です。春に産出して夏には白花に変わってしまいました。小さな母岩に巻き込む花の流れ、そして花が明るく鮮やかに母岩を輝かせています。この石は埼玉の神岡銘石店が熱心な石井氏に一番輝いている菊花石をお世話しました。この石を得てから菊花石の魅力がわかるようになったのです。名石は、感性を刺激させ開眼させます。

上部の右面の瑪瑙花
底面 花と母岩の質感
赤倉山菊花石 玉樋母岩 銘・甘楽の春
横17高13巾5cm
赤倉山菊花石 玉樋母岩
銘・甘楽の春

小さな斑点が入る深緑の軟らかい母岩に淡い紅い花は春の彩りがあります。菊花石の多くは割れが入りますが、軟らかい母岩には粘りがあるので大きく割れ、その割れを一枝に見立てています。菊花石は花の自然性を見て楽しみますが、時には季節を感じる楽しみもあります。甘楽町は桜の名所でもあり、町に因み銘を名づけました。

赤倉山菊花石 貫入母岩 改作

山石 (火山灰)の中に花樋が入り込んだ母岩。昔の花出しは、花さえあれば石は大きな方が良いとして左右に山石を残しています。形が歪になり、磨きも荒く、安易に仕上げた菊花石です。それで花が華やぐように氏が改作したのです。花はそのままで左右の捻れた出っ張りをとり、面を直して磨き直しています。すっきりとした面に母岩の色彩が表れると花が奥行きを持って表れます。

改作前
改作後 横16高11巾8cm
初鹿谷菊花石 巻き込み母岩 横28高20巾7cm
初鹿谷菊花石 巻き込み母岩

周囲の割れ具合から推測して、石ブームの頃に産出されたのでしょうか。母岩は一抱え以上もある大きな母岩を割っています。割った時、正面は割れた平面に巻き込む花がいっぱい表れていたのです。菊花石は、花の一番多い所の中心が一番割れやすく、無理なく花の構図が表れています。

赤倉山菊花石 薄樋母岩 銘・立春
横15高23巾7cm
赤倉山菊花石 薄樋母岩
銘・立春

菊花石の見所は、全体の調和です。特に小さな母岩は母岩が割れずに取り出されるので、母岩を平面的に削ると花序が表れます。母岩の形に花序が合った菊花石は名石です。縦にすると躍動的になり、横にすると落ち着いた調和美を見せてくれます。

初鹿谷菊花 黄金菊花石 銘・偶成
横33高25巾12cm
初鹿谷菊花 黄金菊花石
銘・偶成

始めて見た時、深緑の母岩と閉じこめられた花の固まり。猜疑心が起こりましたが、しかし、よく見ると花の押し合いが調和をしており、また信用できる神岡氏の勧めだから求めたのです。この菊花石は母岩の中で花を作らず、母岩と母岩のあいだ に入り込んだ皮目質の中で花をつくっている珍しい菊花石です。初鹿谷は特別天然記念物の地ですが、菊花石が個々に特別天然記念物に指定される制度が出来れば、最初に指定される貴重な菊花石です。

中央部
左下部