急峻な根尾谷の山並みを見なれている目には丹波路の穏やかな車窓の風景は心地よくうつります。兵庫県豊岡市にある天然記念物の玄武洞は玄武岩の名前を名付けた地です。その天然記念物の玄武洞のそばに玄武洞ミュージアムがあります。
昭和51年、田中栄一館長が玄武洞資料館を設立していらい内容を充実させ、現在は石の博物館の先駆けとして公益財団法人玄武洞ミュージアムとして活動しています。今、玄武洞は山陰海岸世界ジオパークの代表的なジオサイトとなっており、ミュージアムは玄武洞の成り立ちの解説や地球科学を変えた玄武岩が南を向く磁気の発見などの話をマルチビジョンでわかりやすく説明しています。最初に玄武洞の造形を見てからミュージアムを訪れると、玄武洞に関わった先人達の取り組みや自然の素晴らしさを伝えたい田中館長の気持ちがわかります。一階は食堂と豊岡の伝統産業の鞄などの販売をしており、二階にミュージアムはあります。
観光で得た収益と私財全てを鉱物と石の購入に費やし、専門家の協力を得て収集した結果、世界に誇れる日本一の鉱物コレクションを収蔵しています。収蔵品は、外国の第一級の自然金や自然銅の鉱物からエメラルドやルビーの原石などを千六百点の中から展示して、丁寧に解説しています。菊花石は赤倉山の露天掘の最盛期に質の良い大型菊花石を購入されました。また群馬県下仁田の菊花石や中国の菊花石も求めたので内容が充実しており、石の花・華の博物館として自然美をいかんなく伝えています。
この玄武洞を造り出した玄武岩は、今から千六百万年前に火山の噴火によりマグマが山頂から流れ出して冷える時に、規則正しい割れ目を造りだしたのです。そして、昔から人の営みがあり、先人が玄武岩を石材として取り出してきたのです。先人に美意識が有って取り出したのでしょうか。柱状摂理の奥深くから石を取り出して横に走る摂理を残したので、それが天井を支える梁となり見事な玄武岩の洞窟が出来たのです。
少し曲がりながら山頂にまで達する摂理は、大地から天に大きく立ち昇る龍をイメージさせるので、それで「青龍洞」と名付けられています。地質や鉱物などの天然記念物の指定は、人の手が加わると指定されません。しかし、見事に自然の摂理を活かしているので昭和6年2月に玄武洞と青龍洞が国の天然記念物に指定されました。
この大きな菊花石を見て「うわー後ろにも花がある」と驚いています。玉樋母岩なので全体が花なのです。そしてこれだけ大きくて全体に花が入る母岩はなかなかないのです。外側の花は20センチの花の花弁が乱れていますが、中に咲いている花は10センチ程のまとまりの良い花が巻き込みながら咲いている特別貴重な菊花石です。
この母岩は皮目質がつくる薄い母岩です。皮目質の母岩は産出が少なく、そして薄い原石は割れやすく1メートルをこえる。母岩は非常に貴重です。薄樋母岩は皮目質が平面に流れたので花がわかり易く出来ています。初めて菊花石を見た人がこの菊花石を見て花全体の動きを感覚的に感じて感動します。そして多くの人がこの菊花石の横で記念写真を写して帰ります。
生成時の母岩の流れが上から下に流れています。それで千羽鶴が舞い降りるような躍動を見せています。軟らかい母岩は流れに対して敏感です。流れた母岩にドップラーが残留力として働いていたのです。花が開いた時、広がる花弁が流されたので感動するのです。
田中館長が最初の頃に求めた菊花石は初鹿谷の菊花石でしょうか。20センチを越る貴重な大菊です。大きな菊はまとまらないのですが、大きな花が押し合った連状花序となり、ゆったりとした花組を見せています。そして、花に吹き絞りの縞が入り自然の落ち着きと華やかさが同居しています。
「菊花石の世界」に掲載したい菊花石でしたが、どうして生成したかが理解が出来ず、掲載を諦めた菊花石です。マグマから分離した石灰質の母岩は大きくなると花にならず孔雀母岩になるのです。この母岩、薄い層が何回も流れ込んだ、その間に皮目質が入り、石灰質の層を分離したので層の中で核を造り花が出来たのでしょうか。軟らかい層の中で弾けた芯は花弁に同化しています。花弁は大きく伸び、紅い覆輪が華やかな総花母岩を造っており、私たちの思考を越えた絶妙な生成があります。
花序が巻き込みながら薄い母岩を造っています。母岩が割れていないので花の始まりと終わりがこの小さな母岩にあります。深い茶母岩の中で紅い覆輪をまとった小さな花が精いっぱい咲いています。美しい宝石を見た後、この菊花石を見るとなぜか落ちつくのです。
根尾谷の東側、美山から産出された菊花石です。美山は石灰質が多いので石灰質の固まりを造ります。その間に菊が入った貴重な母岩です。左側が上になっていた母岩を横に置きかえて見立てています。
軟らかな母岩が瑪瑙化したので資質の良い美しい母岩となり花が輝いています。母岩には3つの花序があります。乱れた菊は一番上の花序であり、そして花弁の多い花がその下の花序になり、小さな花がその下の花序になっています。それぞれ巻き込んで咲いている花序が出ているので華やかです。
軟らかい皮目質の中で玉菊が花開いたのです。それで母岩の花全てが柔らかく優しく咲いています。玉寄せ母岩はもっとも産出の少ない貴重な母岩。この玉寄せ母岩や層状菊花石、薄樋菊花石など貴重菊花石がミュージアムにあります。菊花石の多様性と素晴らしさを発信しております。