全ての石は自然の固まりです。その石の中で菊花石は花が自然を表しています。余りにも見事な花を作りだしたので自然感を喪失した現代人には理解されにくいのです。
それは、水滴や石が水面に落ちて飛沫をあげるように一瞬にして出来たのです。飛沫は高速シャッターでその一瞬を撮り残すことができます。菊花石は弾けた一瞬を石の中に残しているのです。
そして自然は千変万化の動きをするので、飛沫も菊花石の花も全てが違うのです。今まで菊花石は磨き菊、サバ菊、川ズレ菊など花の出た状態で見ています。また母岩や花の色彩や花の大きさなどで分けています、
しかし、これでは菊花石の本質が掴めないのです。菊花石の本質が掴めないままに大量の菊花石が根尾谷から取り出され、珍しい石として花が出されてしまいました。
自然の中で毎日生きている私たちが、自然の仕組みを理解出来ないのでは余りにも情けないのです。菊花石の自然の素晴らしさが理解されて、また、花出しをする人達が石の中で迷わず、母岩の本質を生かせるように母岩分類をしました。
菊花石はマグマと石灰質が混ざりあった「混合形母岩」と、マグマと石灰質が分離した「分離形母岩」に分類しています。
マグマ(輝緑岩)が石灰岩を溶かし込み、混ざり合った母岩をいいます。マグマの中で石灰岩は飽和状態になって流れていきます。石灰岩を沢山溶かし込んだ母岩は、緑や赤茶の母岩となり、石灰質の斑紋が入って花が大きくなります。
石灰質が少なくなると斑紋が無くなり硬い茶色の母岩になって花が小さくなります。含まれた石灰質の量により、母岩の色彩と花の大きさのわかり易い母岩比例があるのが混合形母岩です。
マグマが火山灰の上を流れて、最後に薄くなって出来た母岩です。薄い母岩なのでマグマの流れが止まると母岩が早く冷えるので、核の形成が小さく出来て弾けています。そのため薄樋母岩は、扁平な母岩の中で小花が平面的に咲いた薄樋花序をつくっています。母岩が薄い分皮目も薄くなっており、弾けた花が薄い皮目を盛りあげています。川の流れに例えると、平瀬のように軽快な流れを持っているのです。
左の薄樋母岩は母岩の先端部分です。母岩の端に沿って入っている花を上から削って咲かせています。薄くなって咲いているので花弁の巾が広いのです。そして、弾けた波動が伸びていったので、花弁の先だけが飛び出した薄樋母岩の特徴をみます。
右の薄樋母岩も花弁が扁平になっています。そして、広く広がって花が展開しています。この母岩は母岩が割れていて、その一部を見せていますが、右上から左下に長くつづく花の並びがあったのです。
(さくら資料館蔵)
郷土資料館が出来た時から、この母岩が看板石のようにありました。大きな花被りの母岩で、山石の上に薄樋が流れて固く結合しています。その流れは大きな花が弧を描くようにして出来た花の流れを彷彿とさせます。それから推測すると花の流れは今の数倍もあった花被の花だったのでしょうか、昔急峻な赤倉山から大きな母岩を降ろすことが出来ず、この大きさが限度でした。(さくら資料館蔵)
マグマが火山灰の上で厚い層として出来て上部に花が集まる母岩を平樋母岩と呼んでいます。量的には一番多く産出しました。厚い母岩なのでマグマの熱が長く続きます。そして、石灰質の粒子が上にあがり、皮目の下で集まり、大きな核を形成して、大きな芯を持った大きな花が出来ています。また、余りに大きな母岩になると、花にならず乳や団子状になっています。
左側の石は数百キロもある大きな母岩の一部です。大きな母岩が割れていたので、花と母岩を対比させて花を横から見ています。沢山の芯を持ち、弾けて花をつくるので、花は集合芯になって大きな花を作り出しています。右側の菊花石は大きな平樋母岩が割れて、花が皮目を盛り上げていたので、上から削り出して仕上げています。花と花が押し合って見事に花開いた平樋母岩の花を上からの視線で見せています。
抜けサバは地味な菊花石ですが、平樋母岩の貴重なサバ菊です。岩盤の中で伝い水によって、皮目の下に並んだ薄い花が水蝕されています。母岩の上で平面的に並ぶ花が薄く重なり合って、平樋母岩の特徴を見せています。(さくら資料館蔵)
マグマが火山灰の中で巻き込んで出来た母岩です。巻き込む層に沿って、核を形成して花が出来ています。玉樋母岩は数百キロを越える大きな母岩になると花が化けています。小さな玉樋母岩は、巻き込む層に沿って綺麗な花が並んでいます。大きな母岩は花が化けていて、小さな母岩は金銀財宝に勝る花が入っています。舌切り雀のお話に似ています。
左の母岩はロールケーキのように巻き込んで出来た母岩です。表面の皮目を削り出して重なる花を出しています。無理なく出したので、外側の花が中に繋がる花の構図が表れています。母岩の特徴を出すことが菊花石では大切な事なのです。
右の母岩は少し軟らかく、花が5センチほどの中菊です。花が大きくなると、外側から削って花の見所を出すのが大変難しくなります。それで、母岩の流れに対して平行に切断機で切断しています。螺旋状に巻き込んだ花序を切断したので、花の並びが半弧を描いて表れてきました。
マグマが非常に沢山の石灰質を溶かして流れ出たものです。石灰質が流れて行く途中に、軟らかな皮目質と石灰質とが分離して分かれて出来た母岩を分離形母岩といいます。この皮目質の母岩を皮樋母岩または樋花母岩と呼んでいます。
菊花石の一番軟らかい母岩であり、水のように流れています。また、石灰質の母岩は母岩全体を石灰質の斑紋でおおわれているので斑紋母岩と言います。その母岩は魚子母岩、孔雀母岩などと名付けています。
この母岩は混合形母岩と区別が付けにくい所がありますが、殆ど石灰質の斑点で出来ていることで分けています。軟らかな流れを伴って生成しているので、複雑な変化をしています。
硬い皮目質が造る、厚みが2センチ程の薄い母岩です。板樋母岩は、初鹿谷から産出しました。
マグマの熱から別れたので早く冷え、皮目質の中で扁平な花を咲かせています。
その多くは皮目質の中で花弁が大きく伸びていますが、母岩が薄いために小さく割れています。また、花と母岩が瑪瑙となって色彩が良い割れた母岩は、ブローチなどにされました。
板樋母岩は厚み3センチに満たない母岩です。母岩の中で一番軟らかい母岩です。軟らかいので薄い板状の母岩を形成して、その中で花弁が伸びきっています。この母岩も昭和55年頃、初鹿谷から産出しました。
左は母岩の上を僅かに削ると大きな花が出て来ます。右は母岩の下になり、皮目に軽快な流れた跡を付けています。
皮樋の板樋や平樋が火山灰の上を流れ、火山灰と結合した母岩を花被り母岩と言います。薄い板樋が山石と結合した事により、割れずに大きく取り出されたのです。平面的に流れたので、平面的に流れた花を見せています。
少し厚みのある母岩を薄樋母岩といいます。薄樋母岩も薄くなり早く流れていたので、横幅1メートルを越すと動きを感じるのです。左下に鶴が舞い降りるような躍動を感じます。左下に流れた母岩にドップラーの力が有りました。それで、花開いた時の躍動を感じるのです。
平樋母岩はマグマの熱源と別れて出来ていますが、厚くなるほど熱が長く続きます。それで核が大きくなり、軟らかい皮目質の中で弾けた花弁が伸びて総花になっています。しかし、その多くが同質同色の魅力のない花になっています。そうした母岩の中で、これほど明瞭に花を見せる母岩はありません。第一級の貴重な母岩です。(さくら資料館蔵)
軟らかい皮目質が巻き込んで出来た母岩です。巻き込みに沿って核が出来、弾けた花弁が軟らかい皮目質の中で長く伸びて総花母岩になっています。美しい色彩が入る花もありますが、多くの母岩は火山灰を巻き込んでいるので花と母岩の色彩が悪くなり、花が母岩に同化しています。
皮樋が火山灰の中に入り込み、火山灰の中で層を作ります。その中で出来た母岩を貫入母岩と言います。川の流れに例えると、伏流水のように火山灰の中を流れたのです。そして、火山灰の中で弾けたので、火山灰の圧力がかかり、綺麗にまとまる花が出来るのです。
左 巻き込んだ流れに合わせた花を削り出しているので、花の流れる構図を見せています。この樋が細いので花もそれに合わせて花が咲いています。 (さくら資料館蔵)
右 貫入が右や左や上から流れ込んで、一所に集まった珍しい母岩。流れ込んだ貫入の広さに合わせて花が開いています。花をたくさん見せるため、山石を取り去ってしまった貫入母岩を見かけますが、山石を残すと貫入母岩がいきいきとするのです。
石灰質の膨らみを残した母岩を斑紋母岩といっています。
その母岩に美しい色彩の入る母岩を孔雀と言っています。多くは山石の間に薄い層として入っています。
花樋母岩に取り巻くように入る事もあります。層の厚い孔雀母岩は薄い流れが何度も流れ込み重なり合って生成したので、色彩や斑の大きさが違った孔雀の層を造り出しています。
初鹿谷から産出する母岩の多くは、たくさん石灰質が流れて大きな厚い母岩をつくっています。
飽和状態がそのまま残って数の子状の斑点が入ります。母岩は軟らかいのですが、瑪瑙化すると母岩に美しい色彩が入ります。
硬い母岩の上に軟らかい母岩が重なって出来た母岩、花樋と皮樋が混じりあった母岩、硬い母岩に軟らかい母岩が取り巻いて出来た母岩など、思考を越えた母岩があります。この母岩を複合母岩としています。
赤倉山の岩盤には、幾筋もの薄い樋が山に沿うようにして入っています。これは、マグマが場所をかえて何度も噴出した跡です。それで、資質の違えたマグマが噴出して重なりあった母岩をつくり出したのです。この重なる母岩があることで菊花石を難解にして面白くしています。
左の母岩は花石母岩の上に総花母岩が薄い層となり流れるように入っています。この母岩の対比が静けさと激しさを見せるのです。この総花の花が乱れていれば削りとります。それで、組合せを見せる菊花石が少ないのです。
中の母岩は茶母岩と花の層が重なり合った母岩で沢山産出しました。しかし花の層が切断したように切れて重なり合っています。斑紋母岩の花が開いた後にマグマの層が花弁を削りとりながら結合したのでしょうか。花樋が下で母岩が上になった組合せを見せる母岩だと思われます。
右の母岩は平樋母岩(桜石)の上に花樋が薄く被っています。花を出す時に花樋の断面を残したので組合せがハッキリとしています。作者の美意識が母岩の特徴を見せる貴重な石になったのです。
左の母岩は斑紋母岩の中に皮樋母岩が入り込んでいます。そして、皮樋の中で黄金の花を咲かせています。母岩の仕組みも花の色彩も、思考を越えた珍しい初鹿谷の菊花石です。
右の母岩は皮目質の母岩に斑紋が混ざり込んでいます。軟らかい資質の組合せです。母岩の下になっている所が母岩の上の皮目です。皮目の下で弾けて下に花弁を大きく伸ばしています。軟らかい母岩は一つの方向に花弁を伸ばすと、互いに力が合わさって全体に伸びた母岩の特徴をつくるのです。